はじめに

プラズマ生体応用工学研究室では、電磁波やプラズマが照射された材料や生体、電磁波やプラズマそのものの挙動や特性を『実験と理論解析の両面』から明らかにすることを目標としています。現在取り組んでいる具体的な研究内容を以下にご紹介します。より具体的にお知りになりたい方は各研究テーマの最後にある()のスタッフまでご連絡ください。

三次元屈折率分布の非破壊計測システムの開発

プラズマの密度分布などを計測する手法は様々なものが開発され、すでに使用されています。しかしこれらは、非常に大がかりな装置が必要である、計測自体で対象物の内部分布が変化する可能性があるなどの問題があります。当研究室では、医療で使用されているCT (Computer Tomography)をもとに、光を照射して得られる干渉画像から対象物の内部分布を再構成する計測システムの開発を行っています。左の図は実験体系で、レーザー光がミラーでの反射を繰り返しながら対象物を通過し、スクリーン上に干渉縞を作ります。ろうそくの炎を対象物として行った実験の干渉縞の一例が右の図です。中央の縞の方向 (位相) が他と大きく異なる部分を抽出し、それを用いて内部の温度分布などを再構成します。現在は、対象物の内部などに凹凸がある場合の光の反射の解析や、干渉画像からの位相変調の抽出に機械学習のアルゴリズムGPGPU (General-Purpose Computing on Graphics Processing Units) を導入した高精度化や高速化などを試みています。(富岡教授)

間欠照射医療用CTの画像再構成

肺や腹部のガン病変は呼吸に伴って移動します。このような動く病変に対する放射線治療において、その移動に対応しつつ照射(被曝)範囲を小さくする方法の一つが動体追尾照射法です。この方法では時間的に変化する腫瘍の位置や形状の正確な情報が必要です。現在は、正確な情報を得るためにCTによる常時モニタリングが行われていますが、この場合、CTのX線による被曝量の増加が問題となります。CTの照射方向を制限(間欠照射CT)すれば被曝量は低減できますが、腫瘍の位置や形状を正確に知ることができなくなるという問題があります。これを解決するために当研究室では、不足した投影方向を過去の投影で補う重み付き再構成法を提案し、間欠照射CTの画像再構成の精度向上に取り組んでいます。下の図は重み付き再構成法を用いて再構成した人間の胸部断面です。右のreferene(正解)を左のreconstruct(再構成)がよく再現していることがわかります。現在は使用する重み関数を変更するなどしてより精度の高い画像再構成を目指しています。(富岡教授)

 フラックスを直接求めることのできるポアソン方程式計算法の開発

通常のポアソン方程式計算コードでは、ポテンシャルを計算した後で、それを用いてフラックスを求めます。その場合、フラックスの計算にはコストがかかり、それに伴う誤差も発生します。当研究室では、フラックスを変数として直接計算するポアソン方程式計算法 (Direct Flux Method: DFM) を開発しています。左の図は、DFMで用いる変数とメッシュ構造を示しています。また右の図は、二つの点電荷を置いたときのフラックスをDFMで計算したときの誤差分布です。計算領域全体で高い精度を実現できていることがわかります。また当研究室では、遺伝子導入などにおける外部電界を印加したときの細胞内の電界分布の解析なども行っています。(富岡教授)

発芽玄米中のGABA含有量に与えるプラズマ照射の影響

発芽玄米に多く含まれるGABA(γ-アミノ酪酸)はストレスの緩和や血圧低下、認知症の予防など様々な効果が期待されている栄養素の一つです。当研究室では発芽前の玄米にアルゴンプラズマを照射することによってGABA含有量がどのように変化するかを調べています。左の図はプラズマ照射中、右は発芽後の玄米の様子です。(山内准教授)

核融合炉内のプラズマ ー 壁相互作用の解明と制御・炉内構造物の開発

核融合炉内のダイバータ、ブランケット第一壁は炉心プラズマから高い熱や粒子の負荷を受けます。このような負荷に耐える材料として炭素やタングステン、バナジウム合金などが検討されています。炉心プラズマからの水素同位体 (特に放射性物質である三重水素)がどのようにこれらの材料に保持され、どのように脱離していくかを調べることは、核融合炉内のトリチウム保持量を管理するために重要です。当研究室では、ブランケット材料候補のバナジウム合金や第一壁材候補のタングステンに重水素プラズマを照射し、表面構造の変化や水素脱離挙動を調べる研究を行っています。図はタングステンに重水素プラズマを照射したあとの表面の様子です。重水素プラズマに微量のアルゴンを混入させる(右)ことで、表面構造が変わることがわかります。また当研究室では、重水素と三重水素による核融合炉で必要不可欠となる三重水素貯蔵材料の研究開発も行っています。 (山内准教授)

ヘリカル型装置における高速イオンの閉じ込めに関する研究

核融合炉では高速イオンが反応や加熱の担い手となるため、その挙動を調べることは重要な研究課題です。当研究室では核融合科学研究所や京都大学との共同研究により、大型ヘリカル装置 (LHD) やヘリオトロンJなどのヘリカル型装置における高速イオンの軌道解析やプラズマ加熱のシミュレーションを行っています。左の図は、ヘリオトロンJに加熱のために入射された高速イオンがどの位置で熱化したり、どの位置へ損失するかをシミュレーションにより求めた結果です。また右の図はドーナツ型をしたプラズマの断面(ポロイダル断面)における高速イオンの密度分布です。このような結果からプラズマ加熱の高効率化などの提案を行っています。また現在は、電離していない低温の中性粒子やプラズマ内に混入した炭素などの不純物イオンがプラズマ加熱に与える影響も調べています。(松本助教)

安定性解析のための自由境界電磁流体 (MHD) コードの開発

核融合炉実現のためにはMHD平衡が存在し、その平衡が安定であることが必要です。特にプラズマと真空との境界における安定性の解析は重要です。当研究室では、不安定性によるプラズマの変形も解析可能な自由境界MHDコードの開発を行っています。図は、LHDの真空領域を高い電気抵抗を持つプラズマと仮定した「擬真空プラズマモデル」を採用したコードによって、摂動を与えられたプラズマがどのように時間発展するかを計算した結果です。左の平衡のときのポロイダル断面における圧力分布と比べ、右のt = 150では不安定性によりプラズマが大きく変形していることがわかります。現在は開発したMHDコードをもとに、生体へのプラズマ照射などに用いられる大気圧プラズマジェットによる流れをシミュレートするコードの開発にも取り組んでいます。(松本助教)